当院の不妊治療について

不妊症治療を始める前に

当院では予防可能な胎児奇形を減らしたいと考えております。妊娠前から葉酸を1日400㎍以上摂取することで胎児の2分脊椎のリスクを減らせることが分かっています。そこで妊娠を希望している方には、必ず葉酸サプリメント400㎍以上を摂取していただくようお願いしています。

喫煙(電子タバコ等も含む)は卵巣機能を明らかに障害するため、当院で不妊治療を始める方に必ず禁煙していただきます。副流煙も卵巣には良くないためご主人または同居者も禁煙していただくか、最低でも住居内および自動車内での禁煙をお願いしております。

妊娠初期に風疹にかかると赤ちゃんが先天性奇形で生まれて来ることがあります。そのため当院では風疹ワクチンまたはMRワクチンを2回以上接種しているか(自分の母子手帳で確認)抗体検査で十分な抗体があることを確認してから妊娠をしていただくようお勧めしています。

不妊症と加齢

不妊症の原因はさまざまですが半分以上は原因不明です。しかし不妊症治療のゴールは原因をみつけることではなく、妊娠して赤ちゃんを得られることだと考えています。しかもできるだけ医療を加えずに妊娠することが望ましいと思っています。でも、年齢が高い人はスピード感をもって治療を進める必要があります。何故なら女性は35歳を超えると明らかに卵巣の中の卵の数は減り、質は悪くなっていきます。不妊症の原因で最もエビデンス(根拠)が高いのは加齢です。

不妊症治療の流れ

不妊症治療は3つのステップからなります。1つめは排卵日頃に夫婦生活をとっていただくタイミング治療で、ここまでが一般不妊治療といわれます。次のステップは良好な精子を細いチューブで子宮腔に注入するAIH(人工授精)です。最終ステップは体外受精による治療です。妊娠のチャンスを逃さないためには適切なタイミングでステップアップすることが大切です。当院では35歳までは6か月ごとにステップアップ、36歳以上は3ヶ月でステップアップとします。タイミングからAIHにステップアップすると妊娠率は2倍になります。さらにAIHからARTにステップアップすると妊娠率は4倍になります。

一般不妊症治療は、基礎検査(ホルモン負荷テスト等の内分泌検査、貧血、糖尿病、肝機能検査、感染症検査、フーナーテスト、子宮卵管造影Ⅹ線検査、子宮鏡など)を1通り行いながら経腟超音波検査で卵巣の卵胞測定をして排卵日を見つけます。そして排卵日頃に夫婦生活をとっていただくタイミング治療から開始します。何周期か行い妊娠しない時は、射精された精子が子宮の頸管でブロックされて卵管まで到達できないことを想定します。そこで次のステップは排卵誘発をして排卵日頃に、細い管で洗浄濃縮精子子宮内腔に入れるAIH(人工授精)を行ないます。AIHを3~6か月行っても妊娠しないときは、卵管に卵が入らないことや何らかの原因で卵と精子が受精できないことを想定してART(高度生殖補助医療―体外受精、顕微授精、胚凍結や胚移植等)にステップアップすることをお勧めします。卵管の通過障害や重度の乏精子症、低卵巣反応のかたや40歳以上のかたは最初からART治療を開始することもあります。ARTは卵巣で成熟した卵子を一度体外へ取り出し、受精させた後、子宮に戻すという方法です。年齢や体質にもよりますが、タイミング療法などの一般不妊治療と異なり、採卵のために高刺激をする場合は連日ホルモンの注射や数回の採血や超音波検査が必要になります。採卵のための麻酔が必要となることもあります。身体的および時間の制約さらに費用面での負担が増加しますので、ご夫婦でよく相談になった上で治療を開始しましょう。ARTに進むときには当院主催の体外受精教室を受講していただきます。少人数制なのでご夫婦で参加していただき疑問、不安があれば講師がお答えしますので、ご相談ください。
体外受精を行うことで初めて明らかになる不妊原因もありますので(卵子の質や受精障害、着床障害など)数回の人工授精を行っても妊娠されない方や、子宮内膜症があり卵管などの癒着が疑われる方には早めの体外受精をお勧めしています。体外受精による不妊治療は1978年にはじめて成功が報告されました。日本でも1983年以来、体外受精による不妊治療を開始する施設が徐々に増加し、2018年には年日本国内においても15人に1人が高度生殖補助医療により出生した子となっています。
体外受精の技術が発達したことにより、妊娠不可能であった卵管障害や重度乏精子症のご夫婦の希望を叶える事が出来るようになりました。しかし体外受精の技術が確立されてからまだ日が浅いため、誕生した児や次世代に対する影響などについては完全に解明されているとは言い難く、研究が進められている段階です。もちろん見た目で判断する奇形を有する児の発生率や成長には、自然に妊娠して誕生した児と変わりありません。

この治療法の成績は日本産科婦人科学会へ報告し、また関連学会への学術発表に使用することがあります。この場合、個人情報の保護を十分に配慮し、患者さまご夫婦および出生時のプライバシーを尊重いたします。